ここに掲載されている連続小説は、1980年代後半、スキーブームで盛り上がっていたころに、管理人がJESCの機関誌に連続掲載していたものを、少し今風にアレンジしたものです。感想や意見などはどしどしBBSに書き込んでくださいな。

連続スキー小説 「TEAR DROP SNOW」

第十七話

 やがて季節は秋を迎えていた。盛岡の秋は短く、山々が紅葉に包まれたかと思うと、紅葉狩り等という風情を楽しむ間もなく、いつのまにか初雪の便りが届いてくる。いつもなら、秀流と一緒に迎えていたその初雪も、今は一人ぼっちで何の楽しみもなく待ち続けるだけの麻衣子である。
 10月下旬、早々とシベリアの寒気団が南下し、東北はこの秋一番の寒さに見舞われた。盛岡を代表する山、通称南部富士「岩手山」にも8合目程度まで初雪が積もった。気象庁の発表では例年より10日も早い初雪だったらしい。麻衣子は朝、カーテンを空け、窓から見える岩手山の白さに眠い目を細めた。澄んだように青い空の中に勇壮とした出で立ちで、岩手山が頭を白くしてそびえ立っているのが見える。
「積もったんかあ・・・。」
きっと秀流のいる関東はまだ、初雪などしばらく先の話だし、彼がこの山を見たらなんと言うだろう。きっとスキーフリークの秀流のことだ。『今から山まで車で行って、雪に触ってこよう。』
とか『さあスキーの準備しろよ。行くで!』等と子どものようにはしゃぎまくるのは分かっている。それほどに純粋にスキーに情熱を注ぐそんな秀流を麻衣子は愛していたのだ。そして今もずっと愛している。
 その夜、麻衣子は仕事から帰ると、夕食の準備もそっちのけで、恐らく返事が帰ってくるはずの無い秀流への手紙をまた書いた。これで返事がこなくなってから、15通目の手紙になる。

『秀流へ
 元気にやってますか。季節はもうじきあなたの大好きな冬になりますね。関東はまだまだ秋のままだと思いますが、東北は今日初雪が降りました。岩手山はもう真っ白です。いつもなら二人で初雪を見る事が出来たのに、ちょっと残念ですが今は一人でマンションの窓から見つめています。来月になれば上信越の方でも雪が降り始めて、またあなたの生活が忙しくなることでしょう。今年こそは頑張ってデモになって下さい。秀流が大きくなって帰ってきてくれることを心から待っています。いつもいつも手紙を書くだけでなにもしてあげられないけど、秀流の幸せを願う気持ちだけは誰にも負けないつもりです。だからいつかあなたが、笑顔で帰ってきてくれることを信じて待っています。気が向いたらでいいですから電話下さい。・・・・・・・・・・
 これから、そちらも少しづつ寒くなっていくと思いますので体には充分に気をつけて下さい。
        それじゃさようなら                       麻衣子』

ペンを置くとまた麻衣子は肩からため息をもらした。いったい自分は何をしているのだろう。いったい誰を待っているのだろう。考えれば考えるほど心は苦しくそして切なくなっていく。

(次回へつづく)

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